エルダーフラワーElderflower
エルダーという木の花で、軽い蜂蜜のような調子を帯びた花の香りをジンの上のほうに添えます。香りが軽く蒸溜で失われやすいため、花を別に浸けて香りを移し、その液を蒸溜器に加える銘柄もあります。
エルダーフラワーの基本情報
| 学名 | Sambucus nigra L.(Kew Plants of the World Online)[1] |
|---|---|
| 科 | ガマズミ科(Viburnaceae)。Plants of the World Onlineによる[1] |
| 使う部位 | 花。生、乾燥、蒸溜液、チンキのいずれでも使われる[2] |
| 自然の分布域 | アゾレス諸島、ヨーロッパから西イラン[1] |
| 開花期 | 5〜6月(英国。Woodland Trustは5月下旬から)[3][4] |
| 香りの系統 | 花の香りに軽い蜂蜜の調子。洋梨、ライチ、マスカットのニュアンス(The Gin Guild)[2] |
目次
植物としての基本
エルダーフラワーは、エルダーという木の花です。英国のキュー王立植物園のデータベースPlants of the World Onlineは、学名をSambucus nigra L.とし、ガマズミ科(Viburnaceae)に分類しています。低木または高木になる温帯の植物で、自然の分布域はアゾレス諸島と、ヨーロッパから西イランまで。学名は1753年、リンネの『植物の種』で発表されました。[1]
英国では広く見られる木です。自然保護団体のWoodland Trustによると、森林や低木林、荒れ地、生け垣沿いと、国内の広い範囲に生えます。花はクリーム色で、香りが強く、直径10〜30センチの平たい房になって咲きます。[4]
日本の厚生労働省が運営する統合医療の情報サイトeJIMは、この植物をヨーロピアンエルダー、ブラックエルダーと呼び、濃い紫色の実をエルダーベリーとして紹介しています。花と実は同じ木につきます。[5]
花は初夏、実は晩夏から秋。同じ木でも扱いが違います
キュー王立植物園が2019年5月に公開した記事は、5月と6月に咲くと書いています。Woodland Trustの言い方では「5月下旬から」。同じ記事でキューは、花の香りの成分が最も多くなったのは真夜中から夜明けにかけて、若い花が開いていく時間帯だった、という調べを紹介しています。[3][4]
花が終わると実がなります。Woodland Trustによると、紫がかった黒の実が熟すのは晩夏から秋です。キューは、この実が薬草として、またワインづくりに長く使われてきたと書いています。[4][3]
この記事で扱うのは花です。酒の専門団体The Gin Guildの解説も花をボタニカルとして扱い、Gin-Atlasに載る銘柄の説明に出てくるのも花です。実のほうは、生や未熟なまま口にすると体に障るとされています。これは最後の節で触れます。[2][5]
ジンには、蜂蜜のような調子の花の香りを上のほうに添えます
The Gin Guildによると、エルダーフラワーの香りには軽い蜂蜜のような調子があり、春のイングランドの生け垣を思わせます。洋梨、ライチ、マスカットのニュアンスにも触れています。[2]
ジンの中では、最初に立つ香り、いわゆるトップノートを受け持ちます。The Gin Guildによると、エルダーフラワーはジュニパーやスパイスを持ち上げ、やわらげます。相性がよいのは、柑橘、アンジェリカルート、ほかの白い花です。[2]
使う形は一つではありません。生の花、乾燥させた花のほか、あらかじめ蒸溜した液や、アルコールに浸けて香りを移した液(チンキ)としても使えます。ただし香りが軽いので、蒸溜のあいだに失わないよう、注意深い扱いが要るとThe Gin Guildは書いています。[2]
Gin-Atlas の銘柄での使われ方
扱い方まで説明されているのが、イングランドのサイレント・プールです。The Gin Guildによると、ローズの花びらやエルダーフラワーのような繊細な花は蒸溜の工程に耐えられません。そこで別の容器で24時間スピリッツに浸けて香りを引き出し、その液を蒸溜器に加えます。ブランドはこの工程を「ティー」と呼び、巨大なティーバッグにたとえています。Gin Foundryの2016年の記事によると、この浸漬にはより度数の高いスピリッツを使い、ろ過してから蒸溜器に移します。[6][7][8]
スコットランドのザ・ボタニストでは、アイラ島で手摘みする22種類の一つです。Difford's Guideの一覧には、ヘザーやサンザシ、メドウスイートなどと並んで載っています。所有会社のレミー コアントローによると、島での摘み取りは毎年3月から10月です。[9][10]
ドイツのモンキー47では、ボタニカル47種のうち約3分の1を占めるシュヴァルツヴァルト(黒い森)の素材の一つです。トウヒの新芽やリンゴンベリーと並び、2016年のペルノ・リカールの発表は、これらを手摘みの素材として紹介しています。[11][12]
ヘンドリックスは、公式サイトが挙げる11種類のボタニカルにエルダーフラワーを含めています。よくある質問のページでは、ジュニパーのほかにキャラウェイやコリアンダー、エルダーフラワー、カモミール、柑橘の皮などが控えめに重なる、上品でなめらかな口当たりだと説明しています。[13][14]
飲み物と歴史
エルダーは、薬にもお酒にもなってきた木です。キューの記事によると、とくに風邪やインフルエンザ、熱、下剤として使われました。1631年には、マルティン・ブロッホヴィッツが300ページの本『The Anatomy of the Elder』を出しています。民間伝承では守り手でもあり、仇を討つ存在でもありました。摘む前に「エルダー・マザー」に許しを請う、という言い伝えもあります。[3]
花は飲み物にも料理にも使われます。キューはエルダーフラワーのスパークリングワインやコーディアル(花の香りを移した甘いシロップ)を挙げ、Woodland Trustはワイン、コーディアル、お茶、それに衣をつけて揚げるフリッターを挙げています。名前の由来もWoodland Trustが書いていて、アングロサクソン語で火を意味する aeld から来たとされます。中が空洞の茎を、火を起こすふいごに使ったためと考えられています。[3][4]
カクテルでは、リキュールの形でも使われます。Difford's Guideのエルダーフラワー・コリンズは、ジンにエルダーフラワーのリキュール、マラスキーノ、レモン果汁、シュガーシロップを合わせてシェークし、ソーダを注ぎます。紹介文は「エルダーフラワーがほのかに加わり、クラシックなコリンズに面白みを足す」。飾りにはエルダーの花かカスミソウ、またはレモンの輪切りを使います。[15]
安全性について
花は、欧州医薬品庁(EMA)が2018年3月に採択したハーブ医薬品の評価書で扱われています。伝統的な使い方として示されているのは、かぜのひき始めの症状をやわらげることです。成分に過敏症がある人には使わないこととされ、12歳未満への使用は資料不足で確立していない、妊娠中・授乳中の使用は推奨されない、とあります。これは医薬品としての評価で、ジンを飲むことについて述べたものではありません。[16]
実については、eJIM(米国国立補完統合衛生センターの情報を翻訳したもの)に、生の実や未熟な実、果実以外の部分には毒性のある物質が含まれ、悪心や嘔吐、下痢を起こすことがあり、加熱すればこの毒素は取り除かれる、と書かれています。eJIMは花の安全性には触れていません。どちらの資料も、ジンについて述べたものではありません。[5]
エルダーフラワーを使ったジン
参考資料
- Kew Plants of the World Online(Sambucus nigra)
- The Gin Guild(Ginopedia: Elderflower)
- Royal Botanic Gardens, Kew(Elder power、2019年5月28日)
- Woodland Trust(英国の自然保護団体。Elder)
- 厚生労働省 eJIM(エルダーベリー。NCCIH情報の翻訳、英語版2020年8月改訂)
- The Gin Guild(イアン・マカロック紹介)
- Silent Pool Gin ブランドサイト(製品)
- Gin Foundry(2016年5月13日)
- Difford's Guide(The Botanist Islay Dry Gin)
- Rémy Cointreau(所有会社・ブランドページ)
- Pernod Ricard(2016年1月27日)
- Difford's Guide(Monkey 47 起源)
- Hendrick's Gin(米国公式サイト)
- Hendrick's Gin(公式サイト FAQ)
- Difford's Guide(Elderflower Collins)
- European Medicines Agency(EU herbal monograph on Sambucus nigra L., flos, Rev.1、2018年3月27日採択)